集客率向上への企画とは
山梨県を中心に衣料品、服飾品、住宅関連品、食料品などを扱う総合スーパーマーケットチェーン「OGINO(オギノ)」を展開する(株)オギノ。現在、同社のポイントカードの発行枚数は40万枚強。同県の人口は約89万人、世帯数は約31万世帯なので、ポイントカードの発行枚数は県内の世帯数を上回り、「一家に1枚」以上普及している。そのカードから得られる顧客情報をもとに、優良顧客の育成を図っている。 (1)企業の概要〜「店は、お客様のためにある」をモットーに“お客様に正直な商売”を実践〜  山梨県を中心に衣料品、服飾品、住宅関連品、食料品などを扱う総合スーパーマーケットチェーン「OGINO(オギノ)」を展開するのが、(株)オギノである。県下一円にドミナント(地域集中店舗網)戦略で出店を重ね、現在36店舗を展開、売上高731億円(2005年2月期)を計上している。  同店舗のカテゴリー別の売上構成比は、食料品65.8%、衣料品16.1%、住宅関連品8.0%、その他10.1%となっている。県内の大型店14企業・114店舗の中でシェア25.7%と、GMSとして県下ナンバーワンのシェアを誇る。  現在、山梨県の人口はおよそ89万人で、世帯数は31万世帯(2000年)を数える。OGINO全店舗合計の年間来店客数は延べ2,900万人に上り、1日当たり全店舗合計で8万人を集客している計算になる。  景気が回復傾向にあるとは言え、小売業を取り巻く環境は依然、厳しい。そうした中でも、同社の業績は常に右肩上がりで推移している。それは、同社が「店は、お客様のためにある」「お客様に正直な商売」という経営方針を、愚直なまでに徹底的に実践してきたからに他ならない。 売上高の推移 (2)CRMへの取り組みの背景〜競争激化の中、地元密着度を強める〜  県下随一のGMSへと成長を遂げた背景のひとつに、顧客の会員化を図り、ひとりひとりの顧客との関係作りを推進してきたことが挙げられる。  会員化の施策は多彩だ。まず、同社ではFSP(フリークエント・ショッパーズ・プログラム)を導入している。FSPのベースは、会員カードを発行し買い物ポイントを付与するなどして獲得する購買データ(いつ、どこで、なにを)だ。このデータをもとに顧客をセグメントし、そのセグメントごとに最適なアクションプラン(サービス、特典、コミュニケーションなど)を策定、実行するというものである。パレートの法則(「2-8の法則」)をマーケティングに応用して、上位顧客が利益貢献度もロイヤルティも高いということを前提に、既存優良顧客を維持しロイヤルティを高めて収益向上につなげることが目的である。  同社がFSPを導入したきっかけは、まさに競争環境の激化である。県内にドミナントを形成しつつあった1996年、イトーヨーカ堂をはじめとする大手GMSやスーパーの出店が相次いだ。限られた商圏の中で、生き残りを懸けた対抗策の必要性に迫られたのである。そんな折、米国で開催されたHMR(ホーム・ミール・リプレイスメント)セミナーにおいて紹介されたバージニア州リッチモンドで急成長する地域型スーパー「ユークロップス」の方策に触発される。それは、カード会員情報をもとに戦略的なDM展開をするというものだった。  同社ではFSPプロジェクトを発足、米国シティ・コープなどのノウハウを学びながら、日本、しかも地元山梨に合った同社独自の顧客情報分析システムを構築し、1999年にFSPを本格稼動させた。  稼動までのステップは、(1)カード会員の獲得、(2)FSP分析ソフト開発、(3)データウェアハウスの構築、と定めた。稼動に先立つ1996年11月に会員カード「オギノグリーンスタンプカード」の発行をスタート。ただ、これは単純なポイントプログラムで、他社が先行していた。そのため1997年〜1999年の期間限定で、付加価値を付けることを目的にエリアや顧客属性に応じたターゲタブルなDM送付も試験的に実施した。また、新聞折込みチラシによる来店促進効果が薄れつつあるという実情も販促費の配分の見直しを確信させ、新たな施策の打ち出しを加速させた。店頭アンケート調査を実施したところ、新聞折込みチラシを見て来店した人が35%であるのに対して、チラシを見ないで来店した人が65%にも上っていたのだ。  1952年の創業以来、地元に根ざした店舗展開を進めてきた同社だけに、FSPによって地域密着性を感覚的なものではなく地域の生活者の満足度を高める方向で顕在化させ、小売業の枠を超えて地域の生活や経済の活性化に貢献していくことに着眼したのである。 Web上から「オギノグリーンスタンプ提携店」からのクーポン・サービス券も印刷できる (3)CRM施策の現状〜「顧客の利便性の向上」を目的にカードの運用を推進〜  「オギノグリーンスタンプカード」は、FSPのベースとなる会員カードである。簡単な登録とカード発行費用100円で即時発行される。発行枚数は40万1,285枚(2005年2月)。山梨県の世帯数に照らして「一家に1枚」以上が発行されている計算になる。各家庭で複数枚保有しているケースもあり、実際のカバー率は9割に達している。ちなみに、ポイントカード保有率の全国平均が約6割と言われる中、驚異的な数値であることは明らかだ。また、来店者の9割がカードを利用している。普及率、利用率ともに高いカードだと言えよう。カード会員による売り上げは95%に達しており、確実にマーケティング効果を発揮している。  カードは、顧客に対する値引きの道具ではなく、あくまでも利便性の提供が目的だ。また、付与するポイントは「データをいただくためのお礼である」という考え方である。ここで得られた顧客データ分析を緻密に行い、きめ細かなFSPアクションプランを策定している。同時に、カードの利便性を高めるため、同社では提携先を増やしてきた。オギノの36店舗全店で共通使用できるのはもちろんのこと、地元ガソリンスタンド、飲食店、ドラッグストア、ビデオレンタル店、美容室など、生活を支えるさまざまな業種業態との連携を強化。現在では110社、207店舗でポイントサービスが受けられる。同社単体のスタンプカードから地域コミュニティを活性化する「エリアカード」としてのポジションを確立しつつある。 〜デシル分析をベースにコミュニケーション施策を立案〜  同社では、売上貢献度の高い顧客層の把握と、売上貢献度別のコミュニケーション施策を効率化するため、カード会員の購買履歴データをもとにデシル分析を行い、各ランク(デシル1〜10)の売上貢献度を算出している。例えば、デシル1は購買金額が全体の上位10%、つまり一番のお得意様層である。逆にデシル10は、同店へのロイヤルティが低い“チェリーピッカー(特売品を買い回る人)”と呼ばれる顧客層だ。現在、購買金額上位40%の会員で同社の売り上げの81%を占めているため、デシル1のお得意様層を獲得していくことが重要な課題になってくる。具体的には、上得意客にはポイント還元率の高いインセンティブを付与したDMを送付し、顧客満足度を高めている。  一方で、デシルランクが下がった顧客への施策も重視。例えば、ポイント還元率の高いDMを送付して再来店を促進している。該当する顧客は競合店にスイッチしていると想定されるため、来店しなくなった理由をアンケートやヒアリングによっても探っている。この調査は、「レジ担当者の接客が悪い」「コロッケが冷たかった」などの不満要素が浮き彫りになるため、顧客視点での改善ポイントの把握にも効果を上げている。 FSP導入の経緯  【図表3】購買履歴を分析して顧客を分類・対策(仮説) 〜CCMの概念を採り入れMDでも顧客満足度を向上〜  上得意客の満足度向上に向けては、ポイント還元や特典といった付随サービス以外にも地域に密着した同社ならではのユニークな取り組みがある。そのひとつが、品揃えにおいて顧客満足を追求するというものだ。そのベースとして大きな役割を果たしているのが、店舗ごとに半年に1回のペースで約20名の上得意客を招いて開催している「上得意客モニター会」である。店舗作りや品揃え、接客、サービスに至るまで、さまざまな観点で上得意客の声を直接聞く機会を設けることで、顧客の率直な意見を集約している。地域に根ざした店作りに参加していただく機会でもあり、上得意客のロイヤルティ向上にもつながっている。  例えば、モニター会においてある上得意客から「あの商品があるからいつも買い物に来ていたのに、なくなってしまった」との意見が寄せられた。そうした商品は、同社の取扱品目全体から見ると売れ筋にも乗らない高級品である場合が多い。カテゴリー・マネジメントの観点で単純に判断すれば、「カットされて当然」の枠に入ってしまうわけだが、そうした商品こそが上得意客を店舗に誘引する材料になっていることがわかったのだ。  またある時には、ピクルスの売れ行きが芳しくないため、カテゴリー・マネジメントに則ってカットしたところ、顧客から苦情が寄せられた。その顧客の購買データを照会したところ、月15万円もの購入実績を持つ優良顧客だった。同店にピクルスがなければこの優良顧客は、まずはピクルスを求めて他店に行くだろう。しかしそれが店舗スイッチのきっかけになり兼ねない。小売業の常道からは逸脱する判断ではあったが、ピクルスという死に筋を撤去せずに復活させた。以来、上得意客の購入する珍しいピクルスの大瓶のほか、英国王室御用達の最高級カレーペーストや1瓶1,200円もする高級インスタントコーヒーなど、月に1個しか売れないようなニッチな商品も欠かさず品揃えしている。  現在、同社ではこうした経験を踏まえて、顧客の視点を採り入れた「カスタマー・カテゴリー・マネジメント(CCM)」に基づいてMDを実行している。 〜FSPに則ったメーカータイアッププロモーションも積極的に実施〜  2005年8月には、従来のデシル分析を進化させた新分析プログラム「デシルDr」を導入、稼動させた。商品から顧客を抽出することも、顧客から商品を抽出することも、その両方のアプローチとも可能な仕組みだ。すでに、サービス施策の打ち出しに威力を発揮しつつある。  ロイヤルティ向上のための取り組みは、前述の上得意客モニター会やカテゴリーデシル分析に基づいたDM発信以外にも多彩だ。例えば、月刊HOTコミュニケーションペーパー「オギノグリーンスタンプ通信」は、全ポイントカード会員との定期的コミュニケーションを図るツールである。月1回の発行で、さまざまなサービス情報のほか、顧客からのお便りを掲載。月例のプレゼントキャンペーンも実施し、関心度を高めている。このほか、月間クーポンプロモーション企画「ふれ愛 得とくクーポン」、プロ野球観戦や産地見学といった会員懸賞企画、3,000人を集客するコンサート企画など家族を対象としたイベントも用意している。  また「赤ちゃんサークル」は、地域ぐるみで子育てを支援する、その一助を同社が担おうという取り組みだ。妊婦や赤ちゃんのお母さんを対象とした会員組織で、入会プレゼント、お誕生日プレゼントなど、ベビー用品10%割引キャンペーン、ポイント3倍付与など特別なサービスを提供することで会員との絆を強化している。  そのほか、顧客データベースを活用して、メーカーとのタイアップ企画にも積極的だ。例えば、2003年9月に実施した酒造メーカーとのタイアップ企画は、パック入り新製品を購入すれば期間中何度でもポイントアップするというプロモーション。顧客データベースから清酒と焼酎のヘビーユーザー1万人を抽出して告知DMを送付した。清酒ユーザーだけでなく焼酎ユーザーまでも対象としたのは、購買分析の結果、焼酎ユーザーは清酒や発泡酒といったほかの酒類も購入する傾向があることをつかんでいたからである。DM送付後、当該新製品の売り上げは5倍に伸びるなど、効果は絶大だった。  こうした特定商品のヘビーユーザーに送付したDMのヒット率は、80%に達する。一方、ターゲットを絞り込まず全会員を対象に送付したDMのヒット率は平均25%程度。ターゲタブルDMの費用対効果の高さは歴然だが、販促費の適正化に向けて、その効果検証には余念がない。 DM企画の効果検証 (4)課題と展望課題と展望〜RFM分析による上位30%のお得意様層へのプログラム開発がポイントに〜  同社では、今や、従来展開していたマスプロモーションをカード会員向けに完全にシフトし、ターゲタブルなプロモーション活動に積極的に取り組んでいる。具体的には、DM、新聞折込みチラシ、自社プロモーション、メーカーとのタイアッププロモーションなど多岐に渡り、顧客との良好な関係作りには余念がない。中でも、RFM分析による上位30%のお得意様層へのプログラム開発に注力していく意向だ。アクションプランを次々と実行に移し、その検証を丁寧に重ねているところである。  こうした取り組みを加速させるため、システムの増強を進める。汎用型のデータウェアハウスの活用による経費削減もそのひとつだ。データベース管理や売場でのチェックアウト・オペレーションといったFSP運用にかかる人的負担(労力、コスト)を、システム補強によって軽減していくことが狙いだ。また、CRM施策の効果測定の精度を向上するべく、分析ソフトの開発も重視すべきポイントだという。こうしたノウハウや情報を適切に共有できる組織体制も整えていく。  (1)鮮度・品質、(2)クレンリネス・衛生管理、(3)フレンドリーサービス、(4)品揃え(品切れなし)、(5)安さの実現、これが小売業の基本である。当たり前のように思えるこれらのことを確実に実行することが大切だという。FSPを核としたCRMがそれを可能にする。さまざまなベースが整いつつあり、いよいよFSPを本格的に運用するフェーズに入るという。